東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)64号 判決
事実及び理由
一 請求の原因1ないし3の事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決の理由の要点)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、審決に原告主張のような違法の点が存するか否かについて検討する。
1 本件考案と第一引用例記載の技術との相違点について
(一) 肩部縁と口側縁との接合部の形状
前記本件考案の要旨によると、本件容袋は、合成樹脂薄膜を別紙図面(一)図示のように、底部2と平行直線状の左右接着側縁3、3とで上部の開口した袋状胴部1を形成し、この両側縁3、3の上方を夫々内方かつ斜上方向け傾斜状に接着して肩部縁4、4を形成するとともに、ノズル13と照応した口径と機械充填の際挟持を得るに充分な長さとを持つ口部5を造り出すように肩部縁4、4を経てほぼ直上方向に延びる口側縁6、6を接着形成し、かつ、両肩部縁4、4と胴部両側縁3、3及び口側縁6、6との各接合部に丸みを持たせてアール部7、7、8、8(以下「本件容袋のアール部」という。)を形成したものであること及びその口部5から豆乳を充填し、凝固した豆腐を包装するものであることが明らかである。ところで、本件容袋のアール部の曲線の形状がどの程度の曲率(半径)のものかは、本件考案の要旨からは明らかでないところ、成立に争いのない甲第二号証(本件考案の登録出願公告公報)によると、本件考案の登録出願明細書には、別紙図面(一)と同じ図面が添付され、本件容袋のアール部の存在を示す記載(同号証二頁左欄一八行~二一行、右欄三九~四一行、三頁左欄一七行~二〇行、二六行~二九行及び右欄二三~二五行)は存するものの、右アール部の曲線の曲率を限定すべき記載は何ら存しないことが認められる。
一方、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によると、第一引用例は、合成樹脂製袋の構造にかかる実用新案の登録出願公告公報であり、同引用例には、別紙図面(二)図示と同じ図が示されたうえ、登録請求の範囲として、「図面に示す如く口部cの幅を胴部aより狭めて構成せるものに於て、口部cを形成する左右両側下辺1と上辺2を共に熔着して不離の状態となし、下辺のみを上辺より長く突出せしめると共に上辺2の開口端bを斜めに構成した合成樹脂製袋の構造。」と記載され、実用新案の説明として、右の袋が糊、液体、粉状物等を収納するのに用いられるものである旨記載されていること及び右の袋の形状については、右登録請求の範囲の記載よりも詳しい記載は存しないことが認められ、これによると、第一引用例の袋は、合成樹脂製で、その全体形状はほぼ別紙図面(二)図示のとおりのものであり、その口部cから液状や粉状のものを収納するものであることが認められる。ところで、第一引用例に示された図は、同引用例の袋の肩部と口部及び胴部の各外縁の接合部が小さなアール部(丸み)を形成しているのか、角状なのか、必ずしも判然としたものではない。しかしながら、第一引用例の前記記載内容によると、第一引用例の袋の右接合部の形状は何ら限定されたものではないことが認められ、また、同引用例に示された図も、袋の肩部と口部及び胴部の各外縁の接合部が少なくともアール部を形成したものときわめて類似して描かれていることが認められる。そして、右接合部がやや角状であるとしても、第一引用例の袋が変形しやすい合成樹脂袋であることから考えると、右接合部については、アール部を形成したものと作用効果の上で取りあげるべき差異がないものと認めるのが相当である。
そうだとすると、本件容袋と第一引用例の袋とは、肩部と口部及び胴部の各外縁の接合部の形状において原告主張のような相違はなく、これと同旨の審決の認定に誤りはないというべきである。
(二) 口部の形状
前記本件考案の要旨によると、本件容袋は、ノズルと照応した口径と機械充填の際挟持を得るに充分な長さを持つ口部を造り出すように形成されていることが明らかであるところ、原告は第一引用例の袋にはそのような口部が示されていない旨主張する。
第一引用例(甲第三号証)に袋の口部の形状について右のような記載のないことは原告主張のとおりである。しかし、右引用例の袋の全体形状がほぼ別紙図面(二)図示のとおりであること及びこれが液状又は粉状のものを収納するものであることは前記のとおりであり、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の袋の口部も本件容袋におけると同様、胴部から肩部を経てほぼ直上方向に延びる一定の長さの口側縁を有することが認められる。そして、本件容袋や第一引用例の袋のような形状の口部を有する袋体に流動物を工業的(機械的)に収納しようとする場合に、ノズルを備えた抽入器具を口部に挿入してその作業を行う方法を採るであろうことは常識上当然に予測されるところ、前掲甲第三号証によると、第一引用例には、同引用例の袋について、「本案は叙上の如く口部の上辺のみ口部より突出すると共に上辺の開口端を斜めに構成するものであるから、袋内に糊、液体、粉状物等を収納するに際しては抽入嘴を下辺(1)上を辷らせて上辺(2)の斜めに形成してある開口端に当て開口部の目安をつけて上辺と下辺との間に挿入すれば開口端が斜めのため開口面積が大となり、抽入嘴の挿入作業が至極容易となり抽入作業能率を増進することができる等の効果あるものである。」と記載されていることが認められる。そうすると、第一引用例の袋の口部も本件容袋と同様、抽入器具のノズルに照応した口径と器具を挟持するに適した長さを備えたものと認めるのが相当である。
したがつて、本件容袋と第一引用例の袋とは、口部の形状において原告主張のような相違はなく、これと同旨の審決の認定に誤りはないというべきである。
2 本件考案がきわめて容易になしうるとした判断について前記本件考案の要旨によると、本件考案は、原告主張のとおり、(A) 容袋の口部からノズルで豆乳類を注入充填する。(B) 豆乳類の注入後、口部を密封する。(C) 袋中に密封された豆乳類を加熱につぐ冷却を経て凝固させ豆腐を造り出す。(D) 豆腐を真空包装状に密封包装させる構成を有する包装豆腐であることが明らかである。
原告は、審決が本件考案と第一引用例記載の技術との審決摘示の相違点(1)についてした判断は、右(B)及び(D)の構成についての判断を欠いたものである旨主張する。
これに対し、被告は、原告主張の事実は、いずれも本件考案にかかる豆腐の製造方法又はその工程に関するもので実用新案の構成とはなりえない旨主張する(請求の原因に対する認否と主張2の(二))。しかし、原告主張の構成は、いずれも本件考案にかかる豆腐の保存状態を示し、包装豆腐の構造を示したものと認めることのできるものであつて、被告の右主張は採用しえない。
そこで、原告の右主張について判断するに、審決認定のとおり、合成樹脂製の袋を豆腐の包装用容袋として使用すること、その際容袋に豆乳の形で入れ、容袋内で加熱、冷却を経て豆腐に凝固させ収納することが本件考案の登録出願前から当業者間に広く実施されていたことは、原告の認めて争わないところである。これらの事実を前提とすると、そのように容袋内に収納された豆腐を食品として衛生的に保存するために、原告主張の本件考案の構成のように、容袋の口部を密封し、真空状態とすることは、当然に予測しうる技術手段に属するものであることが明らかである。審決の前記判断は、右(B)、(D)の点を明示していないが、その前提となる(A)、(C)について当業者がきわめて容易になしうる旨を示すことによつて、(B)、(D)もまた当業者がきわめて容易になしうる旨の判断を示したものと理解することができる。したがつて、本件考案がきわめて容易になしうるとした審決の判断には結局誤りはないというべきである。
3 本件考案の効果について
原告は、本件考案が第一、第二引用例記載の技術に比して格別顕著な効果を奏する旨主張する。
しかしながら、原告主張の右効果のうち、(1)の、本件容袋の口部の形状によるとする効果及び(2)の、本件容袋の肩部縁と口側縁及び胴部縁との各接合部の形状によるとする効果については、前記のとおり、右各形状の点で本件容袋と第一引用例の袋との間に相違を認め難いことに照らし、また、同じく(3)の、本件考案における密封、真空包装の構成によるとする効果については、前記のとおり、そのような構成は豆腐を容袋内に収納する技術において当然予測される手段にすぎないものであることに照らすと、本件考案について原告が主張する効果を各引用例よりも格別顕著なものと認めるに足りる資料はないといわなければならない。したがつて、これと同旨の審決の判断に誤りはないというべきである。
以上の次第で原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の存することを認めることができない。
三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。
合成樹脂膜を重ね合わせて底部2と、平行直線状の左右接着側縁3、3とで、上部の開口した袋状胴部1を形成し、この両側縁3、3の上方を夫々内方かつ斜上方向け傾斜状に接着して肩部縁4、4を形成すると共に、ノズル13と照応した口径と機械的充填の際挟止を得るに充分な長さを持つ口部5を造り出す様、肩部縁4、4をへてほぼ直上方向に延びる口側縁6、6を接着形成し、かつ、両肩部縁4、4と胴部両側縁3、3並びに口側縁6、6との接合部に丸みを持たせてアール部7、7、8、8を形成させた容袋9(以下「本件容袋」という。)でもつて、その口部からノズル13を用いて注入充填させた後、その口部5を接着11して密封された豆乳類を加熱に次ぐ冷却を得て凝固させて造り出された豆腐10を真空包装状に密封包装させた包装豆腐。